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えと・えとせとら [味村ノート]

 旧制中学の頃,成績は甲乙丙丁でついていた.甲を電信柱,乙をあひる,丙をかばんとか兵隊,丁をかなづちとかトンカチなどといったものだ.当時の通知簿を見ると,備考に「甲ハ80点以上,乙ハ60点以上,丙ハ50点以上,丁ハ40点以上,戊ハ40点未満トス.丁戊ハ成績劣等ニツキ注意ヲ要ス」とある.
 甲乙丙丁は,その後,優良可不可となった.それぞれの字画が17画,7画,5画,4画(不可の不)で,成績が悪くなるにつれて重みが減ってゆく.偶然とはいえ,面白い.優のなかで,とくに傑出したものを秀とした.いまはABCDとするのが多く,秀はAA,またはAとするようだ.

◇ 十干は誕生・成長・繁殖・死滅

 甲乙丙丁戊は己辛庚壬癸と続き,合わせて十干(じっかん)という.本来は日を数える数詞で,古く殷の時代から使われていたという.なぜ甲から癸までの10字が選ばれ,なぜこの順序に並べられたのだろうか.「漢書律暦志」を見ると,次のように説いている(薮内清編「中国の科学」世界の名著続1巻,中央公論社,1975).
甲(コウ) 万物は甲(から)を割って出て
乙(オツ) ムクムクと軋(きし,音はアツでオツに通ず,以下同)みだし
丙(ヘイ) 雌雄が炳(あきらか・へイ)と分かれ
丁(テイ) 大そう盛(さかん,セイ)になり
戊(ボ) 楙(さかん,ボウ)に円熟し
己(キ) きちんとした紀(すじみち,キ)に収まり
庚(コウ) きわまりなく更(かわ,コウ)り
辛(シン) すっかり新(あたら,シン)しくなり
壬(ジン) 懐妊し
癸(キ) 筋道どおりに揆(おさ,キ)められる
 つまり,甲乙丙‥…は,生物が誕生し成長し成熟して,次の世代の子孫を残して死滅する過程を表わす文字の列になっているわけだ.

◇ 十二支も生物のライフサイクル

 甲乙丙‥…の十干に対して,子丑寅‥…は十二支という.これは,旧暦11月を子として,月を数えるための序数に使った字という.十干と同じく,なぜ子から亥までの12字が選ばれ,なぜこの順序に並べたかを,再び「漢書律暦志」でみると,次のようになる.
子(シ) 生物は孳(うむ,ジ)のきざしが現われ
丑(チュウ) 芽が紐(むす・チュウ)ばれて出かかり
寅(イン) 陽の気が届いて芽が引(イン)き上げられ
卯(ボウ) 茆(むっくり,ポウ)と地上に現われ
辰(シン) 振(すくすく,シン)と伸び
巳(シ) 伸長の己(きわみ,イ)に達し
午(ゴ) 敷きつめたように横に萼(おさ,ガク)えられ
未(ミ) うっそうと昧(くら,マイ)いほどに茂り
申(シン) 万物は申(しっか)とひきしまり
酉(ユウ) 実が留(な,リュウ)って熟し
戌(ジュツ) 畢(ことごと,ヒツ)く地に落ち
亥(ガイ) 万物は地中に該(すっぽり,ガイ)と収蔵される
 つまり,子丑寅……も,生物が発芽から成長,成熟,収穫を経て再び大地に戻る過程を表わしている.してみると,十干も十二支も生物のライフサイクルを使った数詞であり,農耕が主体の漢民族にとっては,ごく自然な数の称え方といえるようだ.

◇ 十二支獣

 十二支は,ネ,ウシ,トラ……と動物名でも称えられる.なぜ子がネズミで,丑がウシかなどについて,永田久氏はおおよそ次のように書いている(「暦と占いの科学」新潮選書,1682).
子は 孳(ふえ)るで,ネズミは繁殖力絶大の動物
丑は 紐(ニュー)で,牛(ニウ)と音が似る
寅は 敬してつつしむさまをいうが,トラは古代中国人が敬しておそれた動物
卯は 字形が両側に開いていて,ウサギの耳に似る
辰は 中国でさそり座のアンターレス星を指しさそり座の形がタツに似る
巳は 字形がくねくねとヘビに似る
午は 互(ゴ)と同音で,ウマは仲間を互いに呼んで群棲する
未は 中国音でウェイで,ヒツジの鳴き声に似る
申は 字形が電光を表わし,サルは電光のように手を伸ばす仕草をする
酉は 結びつきが定かでないが,トリが生活にいちばん密着した動物だからだろう
戌は 戈と斧のかたちで,草木が伐りとられ農耕が一段落したときにイヌを連れて狩に出たためだろう
亥は 字形が豕(生れたての小ブタ)に似ていて,それがさらにイノシシへと結びついた
 いささか苦しい解釈もあるようだが,古代中国人が抽象的な文字に身近かな動物を当て,具体化したことは間違いなかろう.いちばん身近かな動物としてネコがいないのは,ネズミにだまされて全員集合に間に合わなかったからだという.

◇ えとえとえと・・・

 十干を甲乙,丙丁,戊己,庚辛,壬癸と5個のペアにして,それぞれを五行の木火土金水とする.各ペアは陽陰とし,兄(え)弟(と)と書く.こうして訓読みすると語尾に「えとえと…」が並ぶ,十干十二支つまり干支を「えと」と読むいわれだろう.
十干 音読み 五行 陰陽 訓読み
コウ 陽(兄) きのえ
オツ 陰(弟) きのと
ヘイ 陽(兄) ひのえ
テイ 陰(弟) ひのと
陽(兄) つちのえ
陰(弟) つちのと
コウ 陽(兄) かのえ
シン 陰(弟) かのと
ジン 陽(兄) みずのえ
陰(弟) みずのと


◇ 六十干支

 10と12との最小公倍数は60だから,十干十二支の組合せは甲子(きのえね)から癸亥(みずのとい)まで,60干支になる.それぞれを年に割当てると,60年でもとの干支に戻る.本卦がえり,還暦というわけだ.
 60干支は西暦年数をyとして次の剰余計算で求められる.
   十干は
     y+6 (mod 10)で計算[(y+6)/10]し,余り数によって、
      0:甲・1:乙・2:丙・3:丁・4:戊・5:己・6:庚・7:辛・8:壬・9:癸
   十二支は
     y+8 (mod 12)を計算[(y+8)/12]し,余り数によって、
      0:子・1:丑・2:寅・3:卯・4:辰・5:巳・6:午・7:未・8:申・9:酉・10:戌・11:亥
 ことしは1983年だから,十干は 1983十6 (mod l0)=9 で癸,十二支は 1983+8 (mod 12)=11 で亥,つまり癸亥(みずのとい)で,60干支の最終だった.当然,来年は甲子(きのえね)で,先頭になる.


 えとの動物は,年賀状によく画かれる.友人丁氏は,年賀状にえとに因んだシエクスピアの詞華集を続けておられる.ことしは亥(boar)年で「…Unless it be a boar,and then I chase it;……」というVenus and Adonisの一節だった.筆者も女房ともどもまねさせてもらい,漱石の作品で数年来試みている.ことしは「猫」から次のくだりにした.
「あたかも主人の一夜作りの精神修養が,あくる日になると拭うがごとく奇麗に消え去って,生まれついての野猪的本領がただちに全面を暴露し来るのと一般である.こんな乱暴な髯をもっている,こんな乱暴な男が,よくまあ今まで免職にもならずに教師が勤まったものだと思うと,はじめて日本の広いことがわかる」
 あと一月ばかりで,子年になる.どの作品のどのくだりになるか,それは年が明けてのお楽しみにさせていただく.


[目]

文中に言及されている通り、今回の味村ノートは1983年の暮れに書かれた一文です。
30年前、[ARPANETのプロトコルがTCP/IPに切り替えられ、インターネットが形成され始める][東京ディズニーランド開園][任天堂がファミコンを発売][日本で初めての体外受精児が誕生]などの出来事があった年だそうです。

癸亥の一文ですから、次の癸亥の暮れにご紹介すれば収まりがよいのでしょうが、ちょっとばかり先が長すぎます。
2013年、今年の十干十二支を文中の記述に従って算出すると次のようになります。剰余数の計算が面倒ならば、エクセルMOD関数で。[=MOD(2013+6,10) : =MOD(2013+8,12)]
  十干(0:甲・1:乙・2:丙・3:丁・4:戊・5:己・6:庚・7:辛・8:壬・9:癸)は
   2013+6 (mod 10)=9 で[癸]
  十二支(0:子・1::丑・2:寅・3:卯・4:辰・5:巳・6:午・7:未・8:申・9:酉・10:戌・11:亥)は 
   2013+8 (mod 12)=5 で[巳]
今2013年は癸巳(みずのとみ)でした。従って来年は一つずつ進み甲午(きのえうま)となります。甲子から癸亥まで、今年から来年はちょうど折り返し点となるようです。 さてっ、60干支後半をどこまではしれるのか。えと180.jpg

[いす]
〇 [味村ノート]については→こちら 
〇 イラストは下記のフリーイラストを使わせていただきました
   http://peoples-free.com/
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